「大切な和葉になにかあったら大変だわ」


八重がやさしく自分の手で和葉の小さな手を包み込むと、あっという間に傷が治ってしまった。


あのころの八重は、乙葉と同じように、和葉のどんな小さなケガでさえも見過ごさなかった。


それが今ではこの扱い。


こんな生活にももうずいぶん慣れてしまっているはずなのに、幼少期のころの愛情たっぷりに育ててくれた両親の姿が、和葉は未だに忘れられていなかった。


「和葉のことは後回しでいいから、早く片付けなさい」

「…かしこまりました!」


鏡の破片が入った塵取りを持って、そそくさとその場を去る使用人。


八重は、ゆっくりと立ち上がる和葉の手に握られた手鏡の木の枠に目を向ける。


「そんなゴミを大事そうに抱えて、一体どうするつもり?…相変わらず、変わった子ね」