「それでしたら、素性の知れない男よりも、この300年間おそばでお仕えしてきた黒百合家に、ぜひ神導位の継続を…!」

「う〜む」


言葉を濁す帝に、息をするのも忘れて固唾を呑む貴一。


今回の呪披の儀は、これまでとは明らかに違った。


本来であれば、とっくに神導位継続を言い渡されているはず。

しかし、…帝が悩まれている。


こんな展開、貴一は経験したことがなかった。


「貴一よ」

「は…、はい!」

「神導位継続に際してじゃが、玻玖と互角で、これといった決め手に欠けるのじゃ」


『これといった決め手に欠ける』


その帝の言葉は、呪術の最高峰と言われる黒百合家当主の胸をえぐった。


「なにか、わらわも目にしたことのない新しい呪術はないのか?」


帝がそう言うや否や、貴一と八重はぽかんとして呪披の儀を見届けていた乙葉に目を向ける。