「なにしてるの、和葉」


そんな言葉を上から浴びながら、和葉は塵取りの中にあった手鏡の枠の部分を拾い上げる。

そして、それをそっと胸に抱きしめる。


「…ご心配をおかけてして、申し訳ございません。ですが、たいしたケガでは――」

「なにも心配なんてしてないわ。そのくらいの傷、舐めていたらすぐに治るわ」


氷のように冷たく、茨のように棘のある言葉に表情が固まる和葉。


「そう…ですね。そのうち、治りますから…」


そうつぶやく和葉の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


思い出されるのは、4歳のとき。


八重の裁縫の真似事で、和葉はほんの少し針で指を刺してしまったことがあった。

そのときの八重といったら、血相を変えて飛んできて和葉の指をいたわった。


目を凝らすと、ようやく赤い点が見えるほどの小さな小さな刺し傷。