貴一が和葉へと突き刺した短刀は、手鏡の枠に阻まれ和葉の急所を外していた。


5歳の誕生日に、貴一と八重が贈ってくれたこの手鏡。

鏡が割れてからも、思い入れのあるこれを和葉はお守りのようにして帯に挟んでいたが――。


最後に、この手鏡の枠は大役をはたしたのだった。

それに満足したかのように、つけられた刀傷から発生したヒビによって真っ二つに砕け散った。


それは、本当の意味で和葉が黒百合家の呪縛から解放された瞬間だった。


その後、東雲家への奇襲事件は朝廷で重大案件として取り上げられ、これに関わった呪術家系は厳しい処罰を受けた。

とくに、計画をくわだてた黒百合家と蛭間家は金輪際、皇居への出入りを禁止とされ、『呪披の儀』への参加権は末代まで永久に剥奪された。


帝から見放されたという噂はまたたく間に広まり、いくら優秀な呪術家系であっても黒百合家と蛭間家には悪評がついてまわった。