なぜなら、大勢で玻玖を縛っていたというのに、いともたやすく抜け出されたからだ。

さっきまでの玻玖は、まったく動けなかったというに。


「お前ら、なにをしておる!早く化け狐を縛ってしまえ!」

「黒百合の旦那、オレらはちゃんとやってますよ…!!それなのに、全然効かねぇ…!」

「…なにを馬鹿なことを!」


しかし、これは冗談でもなんでもなかった。

玻玖の体からは、おぞましいほどに妖術が溢れ出していた。


妖術の気の流れは、まるで生き物かのように動いて玻玖の体をまとい、玻玖の狐の面を取っぱらう。


面が取れた玻玖は、さらに妖術の力が増す。

もはや、満月の夜など関係なかった。


目の前に横たわる和葉の姿は、300年前の瞳子の姿と重なる。


「…黒百合よ。お前らは、愛しい我が妻を…何度殺せば気がすむのだ!!」