「心配するな。俺なら大丈夫だ」


傷ついた腕を『治癒ノ術』で一瞬にして治してしまう玻玖。


いとも簡単に治癒したように見えるが、力が弱まっている玻玖には、無駄に呪術で体力を消費している場合ではなかった。


「黒百合殿、まだ終わっていなかったのですか」


そのとき、屋敷の陰からだれかが姿を現す。

その人物を見て、和葉は愕然とした。


なぜなら、貴一の隣に加わったのは…蛭間家当主であったから。

さっき、菊代とともに逃げていたときに目の前に現れたというのに――。


「それじゃあ……菊代さん…は……」


膝から崩れ落ちる和葉。

その瞳からは、大粒の涙が次から次へと溢れ出す。


「…和葉、落ち着け!菊代なら大丈――…うっ…!!」


突然、玻玖からうめき声が漏れる。

和葉が目を向けると、まるで透明の縄で縛られているかのように、玻玖の動きが封じられていた。