小刀を構える菊代が、ゆっくりと和葉に顔を向ける。


「私なら大丈夫です。あとでまたお会いしましょう」


菊代の面は顔全体を覆っていて、表情など見えるはずもない。

それが、今の和葉にはなぜか菊代が笑っているように見えた。


和葉は涙ぐみながら大きくうなずいてみせると、菊代を背にして走り出した。


東雲家の屋敷は、みるみるうちに炎に包まれていく。


炎が苦手な玻玖。

ただでさえ、満月で力が弱まっているというのに。


和葉は、玻玖のもとへと急いだ。


裸足のまま外に出ると、屋敷の表では煙が上がっていた。


煙の中には、乗り込んできた呪術師たちを1人で食い止める玻玖の姿があった。


「旦那様…!!」


和葉が叫ぶと、狐の面をつけた玻玖が振り返る。


面をつけていたらさらに力が押さえられるため、本当は外して応戦したいはず。