「…は、はい。ありがとうございます、和葉お嬢様…」


よろよろとはけていく使用人の後ろ姿を睨みつける八重。


「は〜…。ほんと不愉快…！」


荒々しく椅子に座り直す八重を横目で見つめる貴一は、ため息をつく。


「いったん落ち着きなさい、八重。料理に罪はない」

「そんなこと言ったって…！貴一さんは、なんとも思わないの!?一番悔しいのは、黒百合家当主であるあなたじゃ――」

「いいから黙りなさい!!」


普段はもの静かな貴一の張り上げた声に、思わず目を丸くして驚く八重。

和葉や乙葉でさえも、思わず肩がビクッと跳ねた。


「食事のときくらい、静かにしてくれないか」


鋭い貴一の視線に八重は顔をそらすと、再度出されたビーフシチューに口をつけるのだった。


この夕食時のやり取りから、和葉だけでなく使用人たちも悟ることとなった。