実の娘は『森羅万象ノ術』を宿した呪術師で、怒りと悲しみのままに術を発動させて手がつけられない状況。

屋敷は燃え、瞳子や妻と過ごした思い出は炎に呑み込まれ消えていく。


しかし、冬貴にはまだ残されていたものがあった。


それは、新しい妻になるであろう女と、自分の血を受け継ぐ呪術師の息子。


この2人がいてくれるのなら――。


冬貴はゆっくりと目を開け、腰にさしていた刀を引き抜いたのだった。



玻玖は、はっとして目が覚める。

寒い夜だというのに、なぜか汗をかいていた。


外から差し込む月明かりに導かれ、玻玖は障子を少しだけ開けた。

隙間からは、美しい満月が見えた。


――しかし。


その向こう側に、黒雲が渦巻いているのを見つけた。

今までに見たことがないような禍々しい雲。