しかし、さっき車から降りてきた貴一は……手ぶらだったのだ。


神導位の証であり、全呪術師の憧れと誇りである月光晶を…呪披の儀から戻った貴一が手元に置いていないわけがない。


『まさか!』と言いたそうな顔の使用人たちだったが――。


「…考えすぎね。そんなこと、あるはずないわ」

「そ…そうよね!黒百合以外に、神導位にふさわしい呪術家系なんてあるはずがないもの」

「それに、もし黒百合家が神導位から外されるようなことがあれば、天変地異でも起こるんじゃないかしら?」


使用人たちは膨らみすぎた自らの妄想にクスクスと笑うと、屋敷に戻っていった。


その日の夕飯は、神導位継続を祝して、使用人たちが数日前から仕込んでおいた豪勢な食事が出された。


1人の使用人が八重の前にビーフシチューの入った皿を置く。