「あれは、お父様たちが勝手に取りつけただけ。たしかにお顔はまあ悪くはないけれど、わたくしの着る着物にまで指図するなんてありえないわ!」

「そこは…2人で話し合って折り合いを――」

「妻の着物ひとつひとつに口を挟まないと気がすまないのかしら。あーあ、清次郎さんって女々しいお方」


乙葉の話を聞いていると、結納は交わしたものの、婿として気に食わないことがあれば、この婚約を白紙に戻せると思っているようだ。


結納のときに見た清次郎は、どちらかというと乙葉に気があるように見えた。

そんなつもりで着物のことを言ったわけではないのだろうけど、相手はこれまで人の気持ちなど考えずにわがまま放題に育てられた乙葉。


姉としては、清次郎が不憫に思えて仕方がなかった。


「それに比べて、東雲様は…」