なぜか菊代は言いづらそうだ。


「…それが。黒百合乙葉様でございます」

「乙葉…!?」


和葉は、棚に片づけようとしていた皿を危うく落としそうになった。


なぜ、乙葉がこの東雲家に…。


「ということは、お父様とお母様もいっしょに…」

「いえ、お1人でこられております」


ますますわけがわからなかった。


ちょうど玻玖は外出していていなかった。

よって、今家のことを任されているのは和葉だ。


「…どういたしましょうか」

「そうですね…」


結婚した姉を訪ねに、妹が遊びにくることはなんら不思議ではない。

しかし、黒百合家の人間はもう信用できない。


このまま、会わずして突き返すことも可能だった。


だが、そんなことができるほど和葉は無慈悲ではなかった。


「…とりあえず、会ってみます」