紫色の煙のようなものが渦巻いた貴一の手のひらが、徐々に和葉の唇に近づいてくる。


結局、父親に逆らうことはできなかった。

また、道具として扱われる。


――『泣いてはいけないよ』。


頭の中に響く、またあの言葉。

決まって、和葉が悲しい涙を流す際に聞こえる。


いつもなら、その声に励まされる。


だが、今は無理だった。


こんな状況、悲しい以外のなにものでもない。


和葉は目をつむり、貴一から顔を背け、精一杯の抵抗をする。


「往生際が悪いぞ、和葉。いい加減に――」


そのとき、突然和葉の部屋のドアが開け放たれる。

そのけたたましい音に驚き、動きの止まる貴一。


和葉も驚いて目を開けると、そこにいたのは――。


「往生際が悪いのは、貴一さん。あなたですよ」


なんと、それは玻玖だった!