「ほう。この父に口答えするというのか」


和葉を上から見下ろしながら、貴一は部屋の隅へと追い詰める。


「和葉。わしはなにも、暗殺の失敗を咎めようとしているわけではない。あやつに計画が気づかれただけであろう?だから、再度お前に機会を与えてやろうと言っているのだ」

「…機会……?」

「そうだ」


そう言って、貴一は着物の袖から取り出したあるものを和葉に押しつける。


「これは…」


息を呑む和葉。


貴一から渡されたのは、黒い漆が塗られた鞘に収まる短刀だった。


「女でも扱いやすいものだ。お前ならあやつに近づくこともたやすい。それで、あやつの心臓を一突きにしろ。小賢(こざか)しい呪術よりも、こちらのほうが確実だ」


和葉は言葉を失う。


この期に及んでも、自分の父親は暗殺をたくらんでいるのかと。