貴一はただ、娘の幸せを願っているだけなのだろうか。

暗殺は失敗に終わり、玻玖には敵わないと自覚したのだろうか。


――と。


しかし――。


「それほど仲睦まじいのであれば、もはや呪術などかける必要もないな」


貴一は微笑みながら、和葉に語りかけた。


和葉は、この場の空気が変わったことを察知した。

やはり、人はそう簡単に変わるものではない。


「和葉。わしの命令を忘れたわけではないな?」


貴一が一歩和葉に歩み寄ると、和葉は一歩後ずさりをする。


貴一の命令――。


『東雲玻玖をあの世へ葬れ』


忘れたと思っていたのに、今でも頭の中に響く。


「お前は、黒百合家の人間だろう。それなのに、なにをあの男に飼い慣らされておる」

「飼い慣らすなど…!旦那様は、そのようなお方ではありません!」