「和葉、起きているか?」


ドアの向こう側から聞こえたのは、貴一の声だった。


八重や乙葉が和葉の部屋にくることはあっても、貴一自らやってくることはほとんどなかった。


和葉はおそるおそる部屋のドアノブを握る。


「すまんな、こんな夜更けに」


少し開けたドアの隙間から見えたのは、申し訳なさそうに眉を下げる貴一だった。


「少しいいか?」

「…はい」


和葉は貴一を部屋に入れる。

部屋に入った貴一は、ベッドの上に置かれていたきれいに畳まれた着物に目をやる。


「なにも急いで帰らずとも、せっかくなのだから何泊かしていけばよいだろう」

「…ありがとうございます。しかし、長い間家を空けるわけにはいけませんので」

「東雲家には、使用人もいるのだろう?」

「そうなのですが、旦那様も明日お帰りになられますので、それまでには屋敷に戻り、お迎えしたいと思っております」