和葉の存在を知っているのは黒百合の家の者と、黒百合家の屋敷に仕える使用人だけ。


それに、両親から釘を刺されなくとも、和葉が約束を破るようなことは今まで一度たりともなかった。


なぜなら、言いつけを守れば――褒められる。

褒められるということは、自分に愛情が注がれている。


和葉はこう解釈していた。


『和葉。言いつけをちゃんと守れて偉いわね』


ただそのひと言がほしくて、和葉は貴一や八重の言いつけはいつも必ず守っている。


「お土産をたくさん買って帰ってくるから、楽しみにしててちょうだい」


車の窓越しに、使用人たちに声をかける八重。

使用人たちは、都で流行りの菓子やかわいらしい小物を勝手に想像して喜ぶ。


「「ありがとうございます!」」

「「お気をつけて、いってらっしゃいませ!」」