貴一と八重になだめられる乙葉だったが、とても納得しているようには見えない。


和葉の話題もあってか、結納は思っていたよりも時間が押して、黒百合家に着くころには17時前だった。


そういえば、17時ごろに迎えの車をよこすと菊代が言っていたことを思い出す。


「お父様、わたしはそろそろこれで――」

「なにを言っていてる。今日はもう泊まっていきなさい」

「で…ですか、わたしはそんなつもりは――」

「遠慮することないじゃない、和葉。ここはあなたの家なんだから」

「それに、迎えは明日の朝でよいと、前もって東雲家には文を飛ばしておいたぞ。乙葉の名前でな」


それだけ言って、立ち去る貴一。


聞き流しそうになったが、たしかに言った。

『乙葉の名前で』と。


貴一はわかっていた。

自分と八重の名前の文は、東雲家から弾かれているということを。