こんなこと、この十何年されたことがなかった。


以前の和葉なら愛を感じ、たいそう喜んだことだろう。

しかし今の和葉は、やさしすぎる八重の態度に身震いがした。


それに、香水の匂いもきつい。


「貴一さん!和葉が帰ってきましたよ!」


甲高い八重の声は、屋敷の中でもよく響く。


八重の声をたどるようにして、2階から貴一が顔を出した。

そのあとに続いて、乙葉も。


「本当だ、お姉ちゃんだ!久しぶりに会えてうれしいわ」


上から手を振る乙葉。


「乙葉お嬢様、まだお化粧の途中です…!」


そんな使用人の声が聞こえ、乙葉は「はーい」と軽く返事をすると戻っていった。


残されたのは、和葉をじっと見つめる貴一。


「お…、お父様。お久しぶりです」


和葉はごくりとつばの呑む。