貴一は乙葉に車に乗り込むように促すと、いつもの仏頂面へと表情を戻す。


「ああ、行ってくる」


それだけ言って、貴一は車へと向かう。

しかし、いったん足を止めると和葉のほうへ振り返る。


「わしらがいないからといって、くれぐれも1人で外へ出かけるでないぞ。わかったな、和葉」

「はい…」


和葉は、こくんとうなずく。


「そうよ、お姉ちゃん。ちゃんとお留守番しててよね〜」


車の窓から顔を出し、嫌味たっぷりに微笑む乙葉。


黒百合家の恥とされる和葉は、自由に外出も許可されていなかった。


優秀な黒百合家の長女が、まさか呪術が一切使えない無能などとは世間に知られるわけにもいかず、表立っては重い病でふせっているということにされている。

和葉に呪術の才能がないとわかった約10年も前からずっと。