差出人のところには、そう書かれてあった。

どうりで、玻玖の呪術をすり抜けて文が送られてきたわけだ。


「…和葉様、いかがいたしましょうか。私から玻玖様にお伝えしましょうか」


和葉が黒百合家で家族3人からひどい仕打ちを受けていたことは、使用人たちの間でも共有されている。


そのため、世話係である菊代は和葉の顔を心配そうに覗き込む。


久しぶりに見る乙葉の名前に、虐げられていた日々が頭の中に蘇る。


「だ…大丈夫です。わたしから旦那様にお伝えします」


和葉は、その日玻玖が屋敷に戻ってくると、乙葉からの文のことを伝えた。


「妹の乙葉から…文が?」

「…はい。まだ中は見ていませんが…」


玻玖は気づいていた。

乙葉からの文を持つ和葉の手が震えていることに。


「わざわざ憎まれ口を書き記しているとは思えないが、和葉が開けたくないのであれば開ける必要はない」