その貴一の話を聞いて、布巾で口元を軽く拭った八重が笑う。


「まあ、貴一さんったら。黒百合家と互角に渡り合う呪術師なんているはずもないわ。だからこそこの300年もの間、神導位の座は黒百合家が守っているのでしょう?」

「たしかに、そのへんの呪術師がちょっとやそっと修行したところで、うちに勝てるはずもないからな」


和葉の席の反対側からは、にぎやかな3人の笑い声が聞こえる。


和葉はひと言も発せず、まるでその存在を消すかのように静かに食事を取るのだった。


そして、翌日。

呪披の儀の3日前。


黒百合家の玄関先には、立派な黒塗りの車が停まっていた。


「それじゃあ、家のことは任せたわ」

「かしこまりました、奥様」


いつも以上に時間をかけてよそ行きのおめかしをした八重が、ねぎらうように使用人の肩を軽くたたく。