和葉が戯言(たわごと)を言っているくらいにしか思っていない。


「…旦那様!!今は一刻を争うのです…!お願いですから、早くご自身に『治癒ノ術』を!」

「わかったわかった」


玻玖は、まるで子どもと戯れているかのように軽く受け流す。


…仕方のないこと。

まさかあの口づけに、強力な『眠毒ノ術』がかけられているとは夢にも思っていないのだから。


「旦那様…お願いです!!わたしの話を聞いてください!」


まともに取り合ってくれない玻玖に対して、焦りと後悔と玻玖が死んでしまうという恐怖で、玻玖の寝間着をつかむ手に汗がにじむ和葉。


もう悠長に話している暇などない。


あとでどんな処分でも受ける覚悟はしている。

だから、本当のことを――。


「ちゃんと聞いているぞ。『治癒ノ術』をかければいいのだろう?またあとでしておくから」