和葉は、はっとして顔を上げる。


…聞き間違いかと思った。


なぜなら、今日夫婦になったばかりの相手に対して、『愛している』なんて。


「…旦那様。失礼ですが、それは“愛”ではございません」


愛は、そんなにすぐに紡がれるものではない。

何年もかけて、ゆっくりゆっくりと注がれる。


「“愛”は、“見返り”です。その人のためになにかをすることで、その褒美として愛を受け取れるのです」


少なくとも和葉は、両親からの愛はそうだと思っていた。

言いつけを守り、期待に応えることで少しずつ小さな愛を感じるのだと。


「だから、俺の『愛している』という言葉は、和葉への“愛”ではないと?」

「…はい。そもそも、呪術を持たぬわたしをお好きになられる理由がありません」


和葉は、玻玖に背中を向ける。