ためらいが生じてしまう。


だから、――『玻玖様』とは呼ばない。


和葉の瞳に、再び黒い炎が宿った。


その日の夜遅く。

縁側からは、空に浮かぶ美しい満月を臨むことができた。


風呂に浸かり、白い寝間着(ねまき)の着物に着替えた和葉は、寝室と言われた場所にいく。


今日は、結婚初夜。

この障子の向こう側には、きっとすでに玻玖が待っている。


和葉は、覚悟を決めたようにごくりとつばを呑み込むと、そっと障子に手を添えた。


「失礼致します」


ゆっくりと障子を開ける和葉。


しかし、拍子抜けした。

なぜならそこに、玻玖の姿がなかったからだ。


あるのは、畳の上に敷かれた真っ白な1組の布団だけ。


「だ…、旦那様…?」


顔を覗かせて部屋の中をうかがうが、やはり玻玖はいない。