「…そうだな。『玻玖』…と呼んでくれ」


玻玖に見つめられ、和葉は赤くなった頬を悟られないようにして顔を背ける。


――『玻玖様』。


心の中でつぶやく。


その響きはどこか心地よくて。

玻玖との距離が一気に縮まるような気がした。


しかし――。


『この計画が成功した暁には、和葉には褒美をやろう』

『そうね!たくさん褒めてあげなきゃね』


頭の中に蘇る、貴一と八重の声。


玻玖と過ごす夕食の時間が楽しく、しばらくの間忘れてしまっていたが…。

その楽しい時間は、両親からの愛に勝るほどのものではなかった。


和葉には、やらねばならない使命がある。


「そ…、それでは……『旦那様』とお呼びさせてください」

「『旦那様』…?まあ、和葉がそのほうが呼びやすいのなら」


名前で呼ぶと、情が移ってしまう。