和葉が初めて手にした『自由』だった。


――しかし。


『和葉。結婚初夜である今夜、あやつにその口づけをくれてやれ』


貴一の言葉が頭の中に響く。


…そうだった。

わたしに自由などなかったのだ。


「こんなに素敵なお屋敷、わたしにはもったいないくらいです…」


そう言って、和葉は切なげに笑ってみせるのだった。


その夜。

和葉は豪華な料理でもてなされた。


2人きりの食事ではあるが、玻玖と談笑しながら、また和葉を気にかけてくれる使用人たちに囲まれ、今までに感じたことのない楽しい時間を過ごす。


「玻玖様!また、にんじんだけを残されて!」

「…仕方ないだろう。苦手なものは苦手なのだから」


玻玖の煮物の器の中には、にんじんが3つ転がっていた。

それを使用人に指摘され、口を尖らせる玻玖。