――“夫婦”。

その言葉に、頬をぽっと赤く染める和葉。


「それに、和葉によく似合っている」

「東雲様…」


やさしい玻玖の微笑みに、思わず和葉も笑みがこぼれる。

だからこそ、和葉は心が締めつけられるような思いだった。


こんなにもおやさしい方を、今宵殺さねばならないのかと思うと。


和葉は、玻玖が表に用意していた車に乗り込む。


驚いたことに、運転手は顔全体を隠すような白い狐の面をしていた。


「驚かせてすまない。東雲家に仕える者は、みなこうだ。そのうち慣れることだろう」

「は…はい」


車はしばし山道を走り、霧深い道を進んでいく。

すると突然、目の前に立派な屋敷の正面が現れた。


一部にモダンな洋館の造りが取り入れられた黒百合家の屋敷とは違い、東雲家の屋敷は伝統的な日本家屋。