「…それにしてもその着物、一体どうしたんだ?」

「実家の蔵にありまして。ずいぶんと古いもののようでお恥ずかしいのですが、一目惚れしてしまって…」


そっと襟元に手を添える和葉。

しかし、はっとして玻玖の顔色をうかがう。


「も…もちろん、東雲様からいただいたお着物も持ってまいりまして――」


本当は、『呪結式』のあとは玻玖からもらった、小ぶりの花が無数にあしらわれた淡黄蘗色(うすきはだいろ)の着物を着ようと考えていた。


――しかし。


『お父様は、まだ東雲様のお命を狙うおつもりですか…!?』

『当たり前だ。それに、これが黒百合の人間としてのお前の使命だ』


玻玖を殺せと命令され、そんな気持ちのまま、玻玖が自分のためにと買ってくれた着物を着れるわけがなかった。


「気を遣うことなどない。俺たちはもう“夫婦”だろう?」