「わかったな、和葉」


――またこの言葉。

この言葉の前では、和葉はそれに従うしかなくなる。


「は…はい。かしこまりました…」


そんなこと、…言いたくもないのに。


勝手に口走ってしまう。


そのあと、和葉は物憂げな表情で白無垢から自宅から持ってきた着物へと着替える。

着物蔵で見つけた桜色の着物だ。


これを着ると、少しだけ気持ちが和らいだ。

…ほんの少しだけ。


「お待たせいたしました、東雲様」


紫峰院神宮の境内で、大きな桜の木を眺めていた玻玖に歩み寄る和葉。


「いや。待ってなどいな――」


そう言って振り返った玻玖だが、和葉をひと目見て一瞬言葉に詰まる。


「…瞳子(とうこ)?」


小さく口を開け、ぽかんとして和葉に目を向けている。

和葉がキョトンとして顔をのぞき込むものだから、すぐに我に返る玻玖。