狐の面で目元は見えないが、柔らかく微笑むあの顔が。


ずっと屋敷の中で過ごしてきた和葉が、玻玖と出会い、“楽しい”と思ったのは本当に久々だった。


いっしょにいて、和葉は知った。

玻玖は、やさしくて誠実な人間だと。


そんな人を、――殺せるわけがなかった。


しかし、黒百合家当主である貴一の命令は絶対。

逆らうことなどできない。


口をつぐみ、なかなか首を縦に振ることができない和葉。

それを横目で見つめる貴一。


「和葉。呪術の力を持っていないからと言っても、お前はこの黒百合家の長女だぞ。少しくらい黒百合家のために尽くせ」

「…ですが!」

「ならば、この計画が成功した暁には、和葉には褒美をやろう」


先程までの圧のこもった口調から一変、柔らかい声で微笑んでみせる貴一。