それに、ましてや目にゴミが入ったわけでもない。


これは、和葉が初めて流した――うれし涙だった。


その後、和葉は無事に屋敷へと送り届けられる。


「…和葉!その着物はどうしたの!?」


普段めったに声をかけてこない八重が、和葉が帰ってくるとすぐにその装いの変化に驚いている。


「お母様…!あの…お断りしたのですが、東雲様がわたしにと――」

「和葉のために?こんな高い着物を?あの狐男(きつねおとこ)…、一体なにをたくらんでいるのかしら」


八重は軽く舌打ちすると去っていった。

その八重の声を聞きつけて、階段上から顔を出したのは乙葉だった。


「そんな立派な着物をいただいたって、着ていくところなんてないのにね。やっぱり変なお方だわ、東雲様って!」


乙葉はそれだけ言うと、フンッとつんけんした顔を背けて自分の部屋へと戻っていった。