「し…東雲様…!」


気がつくと人混みに呑まれ、玻玖に追いつこうと人と人との間から手を伸ばす。

だが、そんな手が前を歩く玻玖に届くはずもない。


――と思っていた、そのとき。


「すまない。危うく1人にさせるところだった」


まるで和葉をすくい上げるかのように、玻玖が和葉の手を握った。

そして、そっと抱き寄せる。


硬い玻玖の胸板。

見上げると、まっすぐに見つめてくる狐の面のまなざし。

和葉の手なんてすっぽり収まってしまうくらいの玻玖のゴツゴツした大きな手。


そのひとつひとつに意識してしまって、和葉は思わずドキッとしてしまう。


しかも、人混みから抜け出せたというのにその手は繋がれたまま。


「あ…あの…、東雲様……。その…、お手を――」

「離さない。また和葉と離ればなれになったら困るからな」