「それじゃあ、行くか。和葉」

「あ、あの…!」


呉服屋を出たところで、和葉が玻玖に声をかける。


「どうかしたか?」


振り返る玻玖に、和葉は頬を赤らめながら上目遣いで見つめる。


「お…お着物、うれしいです。ありがとうございます…」


語尾になるにつれて小さくなる和葉の声。

とはいえ、これが今の和葉なりの精一杯の感謝の言葉だった。


まさか、いきなり装いを変えさせられることになるとは思わなかった。


しかし、さっきまでの乙葉のような姿とは違い、和葉は初めて自分らしい自分を見つけたような気がしたのだ。


そのあと、街の中をぶらつく和葉と玻玖。


周りにいる人よりも長身で、狐の面をつけている玻玖は人混みの中でもよく目立つ。

それに比べて和葉は小柄で、このような場にも慣れていないせいで、すぐに人の波に呑まれそうになってしまう。