和葉は大事そうに袖をキュッとつまむが、乙葉に似た外見の自分が違和感でしかなかった。


「和葉!支度はできたの?」


部屋に八重がやってくる。


「…お母様!いかがですか、この着物…!」


和葉は緊張した面持ちで八重に問いかける。


「素敵ね。似合ってるわ」


そんな言葉を期待していた。

――しかし。


「なにしてるの。いいから早く行きなさい」


一切、着物のことには触れてもらえなかった。


…なんとなく、そんな気はしていた。

期待しても、ほしい言葉が返ってきた試しがないから。


でも、今日は。

今日だけは、そう言ってもらえるのではないだろうか。


和葉はどうしても、いつもそんな淡い期待をしてしまうのだ。


「…はい。すぐに行きます」


和葉は眉を下げて目元を潤ませながら、少しだけ口角を上げた。