それなのに、『お出かけ』とは一体どういうことか。


「和葉、早くしなさい。外でお待ちよ」


使用人のあとに現れたのは、どこか不服そうな顔の八重。


「そんなみっともない着物で、外に出るわけにはいかないでしょ。誕生日にあげた着物、あれを着ていきなさい」


その着物とは、乙葉が一度も着なかったという“お下がり”だ。


和葉は桐たんすから、大切にしまっておいた黒地に大ぶりの椿の花の絵があしらわれた派手な着物を取り出す。


「で…ですが、お母様。いきなり…どうして。それに、“外でお待ち”とは…どなたがですか?」

「そんなの、東雲家当主様に決まっているじゃない。和葉に会いに、突然こられたのよ」


驚いた和葉は、部屋の窓から玄関先を覗く。

そこにはたしかに、唐茶色(からちゃいろ)の着物を着た玻玖の後ろ姿があった。