「そうとは言われましても、乙葉以外…東雲殿に見合った嫁になる娘など――」

「いますよね、そこに」


貴一の話を遮るようにして、玻玖は部屋の外へ顔を向ける。


「この客間の外で、冷たい床に座らされている――黒百合家の“長女”が」


するとそのとき、客間の障子がひとりでにパッと開いた。

それは、玻玖の呪術で開け放たれたものだった。


「…お待ちください!東雲殿…!」


制止しようとする貴一には目もくれず、立ち上がった玻玖はゆっくりと客間の外へ。

初めからそこにいるとわかっていたかのように、迷うことなく廊下で寒さに震える和葉のもとへ歩み寄る。


突然目の前にやってきた狐の面の男に、驚いた和葉は言葉も出ない。

そんな和葉をそっとやさしく抱き上げる玻玖。


そして、貴一たちのほうを振り返る。