「突然なにを…!東雲殿は呪披の儀で乙葉を気に入られ、縁談の話をくださったのではないですか…!」

「失礼ですが、俺はそんなことひと言も言っておりません」


予想だにしない展開に困惑する貴一たち。

和葉のいる場所からでも、慌てふためく3人の様子が読み取れた。


「黒百合さん。ちゃんと文に書いたと思うのですが。『黒百合家の“長女”を嫁として迎え入れたい』と」


面越しに玻玖の鋭い視線が刺さり、思わず唾を呑み込む貴一。


「で…ですが!乙葉は黒百合家を代表する優秀な呪術師です!きっと東雲家のお役に立てると――」

「彼女は、“次女”ですよね?俺が縁談を申し出た相手と違う娘を連れてこられては困ります」


とびきりの笑顔が通じないどころか、玻玖から門前払いを食らい、今までに経験したことのない屈辱に、乙葉は顔を真っ赤にして目に涙を浮かべる。