「――ということで、東雲殿。そろそろ本題に入らせていただきましょうか」


取り繕った会話をある程度終えた貴一が、玻玖にそう伝える。


いよいよだ。


和葉は陰から聞きながら、ごくりと唾を呑む。


ここで縁談が決まれば、乙葉が東雲家へ嫁ぐことになる。

偽りの花嫁として。


そうとも知らない玻玖は、縁談を断るわけがない。

自分から縁談の申し出をして、こうして挨拶にきたのだから。


「まさか、現神導位である東雲殿から、縁談のお話をいただけるとは思ってもいませんでした」

「黒百合さん。『神導位』の話はここではなしで。今日は、大事な娘さんに会いにきたまでです」

「おっと、そうでしたな。これは失礼」


玻玖に白い歯を見せて笑ってみせる貴一。

腹の底では、神導位の自慢話をされても気分が悪かったが、力があるにも関わらずひけらかさない玻玖の謙虚な言動も貴一は気に食わなかった。