乙葉と比べられ、心ない言葉を浴びせられる毎日。

同じ家族であるはずなのに、和葉だけはいつも蚊帳の外にいるような扱い。

両親の気を引くために他でどれだけ努力しても、一切見向きもされない。


和葉は黒百合家の“恥”と言われ、家の中では肩身の狭い思いをしてきた。


何度も大粒の涙を目に浮かべた。

大声で泣きじゃくりたかった。


しかし、決まってそういうときに和葉の頭の中に響く言葉がある。


『泣いてはいけないよ』


――と。


その穏やかでやさしい声に、和葉はいつも救われていた。


いつも独りの和葉にとって、自分を励ましてくれるようなそんなだれかがそばにいるような――。


だから、和葉はこれまで辛くても悲しくても、一度も涙を流したことはなかった。


子どもながらに泣かない和葉を見て、『子どもでありながらかわいげがない』と言って両親は蔑んだ。