長い夜が始まる前に隆永が駆け付けた。
乱れた服のまま部屋に飛び込んできて抱きしめられる。隆永は何も言わない。ただひたすらに震える手で離すものかと力いっぱいに抱きしめる。
「隆永さん……」
「……俺はまだ諦めてない。三人とも助ける」
幸の身体を離した隆永はその白い手を両手で握り祈るように額に当てた。
「掛も畏き大神の御前に白さく 我家の妻毎月の障りを 見る事なく身重り來て 今其れを産むべき月に當りて 親族家族もろもろ深く思ひ煩ひて 一向に大神の恩頼を仰ぎ奉るとして 種々の物奠り 乞ひ祈み奉るが故に 其の腹の 堪へ難ちなるに及ては────」
痛みの中で子守唄のように心地よい声を聞いた。
ここ最近、夜にふと目が覚めて夢と現の狭間でぼんやりしている時に聞こえてきた声だった。
ずっと夢かと思っていたけれど、そうか、この声は隆永さんの声だったんだ。
「……悩む事なく苦む事なく 安けく平らかに愛き眞玉なす子を 産み出でしめ給ひて 母の身も 病しき事なく 嬰児も悩しき事なく 諸共に健全に 日毎に麗しく 日立ち行きて事なく 榮へあらしめ給へと 恐み恐み 白す───」
最後の一語が囁かれた後、またすぐに同じ言葉を繰り返す。