その日は突然訪れた。
隆永が朝から仕事で外へ出掛けていて、幸は最近日課にしていた本殿の参拝に出掛けていた。
今朝起きた時からいつもよりもお腹が張っている気がしていたが、突然襲った下腹部の痛みにその場に蹲る。
すぐに社頭の掃き掃除をしていた神職が駆けつけて部屋へ戻ると、すぐにお産の用意が整えられた。
予定日が近づくにつれ、隆永がどんどんやつれていくのが目に見えて分かった。隆永は「3人とも俺が助ける」という約束を果たそうと懸命にその方法を探してくれていた。
昨日の夜もそうだ。こちらに背を向けて文机に向かう姿があまりにも切なくて、そっとその背中に寄り添った。
────隆永さんは私のわがままのために最善を尽くしてくれた。でも、叶わなかった。
「真言さん……っ」
部屋の外に控えているであろう真言に声をかけた。すぐに返事がある。
「隆永、さんは……?」
「もうあと二、三時間で戻られます。ご安心ください」
聞こえた真言の声が湿っぽく震えているのに気が付き小さく笑った。