「あ、このふたついいかも」
「じゃあその字を組み合わせて……」
「もー、なんでそう難しくしようとするの?」
難解な読み方にしようとする隆永にため息をついた。
「あのね、幸。名前はこの世でいちばん短い呪いなんだよ」
「まじない?」
「そ、名前に込められた意味の通りに成長するまじない。何度も何度も、色んな人がその子の名前を呼ぶことで、名前通りの人間に育っていく。だから俺たちみたいな神職はめでたい漢字をやたら使うんだ。その子の人生が祝福で満ち溢れますようにってね」
「へぇ〜、そんな意味があったんだ」
「だから……」
「でもダメ。尚更ダメ」
隆永は首を傾げる。
「たくさんの人に呼んでもらう名前なら、なおさら分かりやすくて呼びやすい名前じゃなきゃ」
幸はそばにあった辞書を引き寄せて開いた。
「それに双子なら、似た音の名前にしてあげたいな」
真剣に辞書を見つめる幸の横顔に、隆永は目尻をさげた。
「じゃあ、幸がさっき良いって言ったこのふたつ。"芽"はそうだな、めぐみ、めぐむ。"薫"はくゆるとも呼ぶんだって。そうだな────"芽"と"薫"……どうかな?」
「芽と、薫……」
声に出してみる。とても綺麗な響きだった。