隆永の部屋は母屋のかなり奥まった場所にあった。

部屋の前に立つと気配で気付いたのか「誰だ」と殺気立った声で問いかけられる。


「隆永さん……?」


そっと名前を呼べば、部屋の中からバサバサと本が崩れるような音がして足音がドタバタと迫ってくる。勢いよく障子が開けば、痩けた頬をした隆永が目を見開いて自分を見下ろした。


「幸……」

「ご飯食べてないって聞いたよ。おにぎり持ってきたから、一緒に食べよう。隆永さんが好きな鮭と昆布」


幸の顔と皿のおにぎりを見比べた隆永。


「……俺と二人きりになるのは、怖いんじゃないの?」

「変なことしてきたら、ぶん殴る。昔みたいに」



幸の後ろに控えていた真言をみて、隆永はふっと小さく笑う。



「不安なら部屋の前にいな。でも、腹の子には手は出さないよ。約束する」

「……承知しました」



真言は一礼して来た道を戻り始める。その背中を見届けて、幸を部屋に招き入れた。

初めて入った隆永の部屋は無駄なものがなく質素なものだった。ただ文机の周りだけ、沢山の書物が乱雑に広げられていたり、塔のように積み上げられている。



机の前に据わった隆永はさちに向かって手を差し出した。



「食べる。お腹空いた」

「何日も食べてないんでしょ? そりゃそうだよ」



くすくすと笑って隆永に皿を差し出した。

そばに腰を下ろして散らばる本を整える。みみずのような文字で書かれていて内容はよく分からない。