『相手のお嬢さまに何と申し上げればいいのか……こっちの身にもなって下さい!』

「"ごめん君のことは妹にしか思えない"って伝えといて」



からから、と立て付けの悪い扉を開けた瞬間、和三盆と餡子の甘い匂いがふわりと頬を撫でた。

ショーウィンドウに頬杖を着いて退屈そうに落書きをしていた店員が慌ててぱっと顔を上げる。




『そんなこと言えるわけないでしょう!? 大体貴方は小さい頃から……』




隆永は大きく目を見開きながら携帯を耳から話した。権宮司!?と叫ぶ声が遠くなる。



「いらっしゃいませ」



去年の春先に初めて訪れたかむくらの社の梅の花のようだった。積もる雪の中に凛と咲く梅の花は息を飲むほどに可憐で美しかったことをよく覚えている。


その梅の花が、この寂れたアーケード街の潰れかけの和菓子屋でぱっと咲いた。

春の陽だまりの温もりをふわりと感じる。



頭のてっぺんからつま先まで雷に打たれたような衝撃が走った。

自分が次の宮司に選ばれた一昨年の夏も、天啓を受けた時はこんな感じがした。だからこれは天啓なのだと思った。