ほぼ無意識だった。



「不安で怖くてたまらないかもしれないけれど、さっちゃんの心も身体も、元気な赤ちゃんを無事に産むために頑張ってる」



ああ、そうか。そうだ。迷ってたなんて嘘だ。

このお腹に二人が宿ってくれた瞬間から、私はずっと二人を無事に産むことしか頭になかったんだ。


どんなことが起きようと、どんな未来が待っていようと、元気に生まれてさえくれればそれでいい。そう思っていた。

そう覚悟していたんだ。



次の予約の参拝客が来て俊典が呼ばれた。「お宮参りはうちでしてね」と言い残すといそいそと本殿へ走っていく。

その背中に頭を下げた。



もう一度本殿に手を合わせたあと、店への帰り道を歩いた。

歩きながら、幸は一本電話を掛けた。


相手はすぐに『お久しぶりです、幸さま』と電話に出た。


「お久しぶりです、真言さん」

『お義父さまの具合はいかがですか? 腰の骨を折るとなかなか大変でしょう』


なるほど、自分が社へ帰らない言い訳を父親の介護ということにしたらしい。



「ご心配ありがとうございます。今日社に帰りたいんで、迎えをお願いできますか」

『もちろんです。今日は手が空いているので、私がお迎えにあがります』

「ありがとうございます。隆永さんには今から帰ること、伝えないでもらえますか」


もちろん真言からは『どうしてです?』と聞き返される。