「宮司、早く始めてください。次のご予約もあるんですよ」
先程幸を案内した巫女が千早を身につけた姿で現れた。ほらほら、と俊典の背を押して祭殿の前に向かわせる。
その姿が隆永と真言と重なって、思わず小さく笑った。
安産祈願神事はお祓いと祈祷が行われて20分程度で終わった。
神事でお祓いした腹巻を社務所で受け取っていると、俊典に声をかけられた。
「さっちゃん、新撰ありがとね」
「こちらこそありがとうございます」
「元気な子産んでね。性別はもう分かったの?」
「はい。男の子です、双子の」
「双子か! 一気に賑やかな家族になるなぁ」
朗らかに笑った俊典に、わくたかむの社が普通の神社だったらみんなこう言う反応をしてくれたんだろうなと胸が痛くなる。
「さっちゃん?」
幸が目を伏せて口を閉ざした事を不思議に思った俊典が顔をのぞき込む。
「大丈夫? 体調悪い?」
「いえ、違うんです。ごめんなさい」
「どうかした?」
優しく問いかけられて、目尻が緩む。
最近ずっと泣いてばかりだ。
「双子のひとりが、他の子とは少し違ってて。夫が、それを受け入れられなくて────いえ、違います。私もなんです。本当は私も怖くてたまらない」