案内された本殿の中はわくたかむの社よりもかなりこじんまりとしていて質素だった。

床の上に並べられた座布団の上に腰を下ろすと、しばらくして社紋の入った深緑色の狩衣を身にまとった清志と同じくらいの歳の宮司が入ってきた。


慌てて頭を下げる。



「さっちゃん、久しぶりだね」



思わぬ挨拶に目を瞬かせた。

わくたかむの社で執り行われる神事は厳粛な雰囲気の中淡々と行われるので、まさか名前が、それも昔から呼ばれてきたあだ名が呼ばれるとは思っていなかった。

祭壇の前には進まず、くるりとこちらへ向きを変えると、自分の前に屈んだ。


「あの、えっと……」

「最後に会ったのさっちゃんが七五三の時だし俺もまだ禰宜だったから覚えてないか。清志の友達の岡本俊典です」

「あっ……覚えてなくてすみません。父が、お世話になってます」

「いいのいいの。にしても、いつの間にかこんな綺麗なお姉さんになって、結婚して子供も出来たんだって? 時が経つのは早いな」



うんうん、と昔を懐かしむように目を細めて一人頷く俊典に、幸は「あはは」と愛想笑いを浮かべる。