「────幸、配達頼まれてくれないか」
部屋のドアを叩いた清志が入ってくるなりそう言った。
重い身体を起こして「……配達?」と聞き返す。
「ああ、13時に届けるように頼まれた。俺は店があって出れん」
「配達なんて、今まで受け付けてなかったのに」
「……お得意さまなんだよ」
妙な間の後に清志は目を逸らしてそう言う。少し思案して「分かった」と頷いた。
渡された住所は歩いて15分程度の近所だった。
「松岡の名前を言えば、相手には伝わるようになってる」家を出る前に配達するお菓子を渡しながら清志はそう言った。
店の名前ではなく苗字を伝える事に違和感を覚えたが、きっと古い知人か何かなんだろう。
外に出ると強い日差しが頭の上に降り注いだ。
長い間外に出ていなかったので、もう初夏から夏へ移ろい始めているのに気付かなかった。
「日傘いったかな」
手で顔に影を作って空を見上げる。
空が近く、大きな白い雲が眩しかった。