バツが悪そうに目を逸らした隆永を見て小さく笑った。
「隆永さん、大好き。愛してる。でももう帰って、二度とここへは来ないで。それで私たち……離婚しよっか」
思ったよりもスラスラと言えたその言葉に目じりが熱くなる。
「離婚なんてする訳ないだろう」
隆永が手を伸ばした。テーブルの上に置いた幸の手を握った。
こんな無茶苦茶で馬鹿なことを言っているのに、その手はいつも通り優しくて温かい安心する手だった。
「今日は帰る。俺がいたら安心して眠れないでしょ。疲れてると思うから、今日はしっかり眠って休んで」
隆永は握った幸の手を自分の額に当てた。
「絶対に幸を助ける。お腹の子だって、出来ることなら助けたい。一番大事な人との子供なんだよ。俺だってこんな事、したくてしてる訳じゃない」
「……ん、分かってる」
「愛してる、幸」
「私も、愛してる」
幸の頬の涙のあとを拭った隆永は清志に頭を下げると、振り返らずに出て行った。